ニュースの概要
サムスン電子とウリ銀行は、スマートフォン向けの決済サービス「Samsung Wallet Money」で、海外での支払いに使える国と地域を210に広げた。中国ではWeChat PayのQRコード決済に対応し、飲食店で使われるテーブルオーダー決済にも使える。中国以外の地域では、Mastercardの決済網を利用する仕組みである。Galaxyの利用者は、旅行前に物理カードを用意したり、現地通貨へ両替したりする手間を減らせる見込みだ。国内向けのスマホ財布が、旅行や出張といった国境をまたぐ場面へ本格的に踏み出した動きといえる。
引用元: Samsung Wallet Moneyの海外決済、210カ国へ拡大(SBS News)
分析・見解
中国はWeChat Payに乗り、それ以外はMastercardに任せる二段構え
中国向けと、それ以外の地域向けで、使う道具を分けている点がまず目を引く。中国ではカードの国際ブランドよりも、QRコードによる支払いが日常の主役だからだ。WeChat PayのQRに対応すれば、屋台や小さな店でも支払える。さらに、客が自分のスマホで注文して支払うテーブルオーダーにも対応する。外国人旅行者がつまずきやすい場面を、正面から狙った設計である。
一方、中国以外ではMastercardの決済網(=世界中の店と銀行をつなぐ道路のような仕組み)に乗る。自前で加盟店を開拓せず、既存の網を借りて210カ国まで一気に広げる方法だ。時間と費用を大きく削れる代わりに、手数料の自由度は下がる。
両替も物理カードも要らない体験が狙う本当の相手
海外旅行の面倒は、出発前の準備に集中している。空港で現金を両替し、カードの限度額を確認し、紛失に備えて予備も持つ。この手間をスマホ一台にまとめられれば、価値は大きい。ただ、競争相手は現金ではない。すでに海外で使える他社のスマホ決済や、海外手数料の低い旅行向けカードである。
日本でも、Apple PayやGoogle Payにカードを登録して海外で使う人は多い。Samsung Wallet Moneyの特徴は、銀行と組んだ専用の残高を軸にしている点にある。銀行口座に近い感覚で使える設計なら、カードを持たない若い層にも入口を作れる。ここが、既存のスマホ決済との違いになりうる。
海外決済の手数料と為替が、普及の分かれ目になる
便利さだけでは人は動かない。利用者が最後に見るのは、為替レートと手数料である。両替所より有利でも、海外利用の事務手数料が上乗せされれば差は縮む。今回の発表からは細かい条件が見えにくく、ここが評価を左右する。
QR決済は、店側の手数料が比較的低い地域が多い。そのぶん、利用者向けの優遇を出しやすい面もある。しかも、同じ残高で中国と欧米の両方を使えるなら、旅行の途中で支払い手段を切り替える必要がない。この「切り替え不要」こそ、最大の差別化になる。
日本の旅行者にも関わる、スマホ財布の国境越え競争
日本でも、訪日客向けにAlipay+や各国のQR決済をつなぐ動きが進んでいる。Samsungの動きは、その逆向きの流れだ。自国の利用者を海外へ送り出すとき、現地の決済網にどうつなぐかが勝負になる。
端末メーカーが金融に踏み込むのは、支払いの履歴と利用者との接点を握れるからだ。買い替えの時期に「Galaxyなら旅行が楽」という理由が加われば、スマホの販売にも効く。決済は単独の事業ではなく、端末を選んでもらう理由として働き始めている。
ビジネスへの影響
旅行・小売・飲食の受け入れ側が見直すべき点
韓国や中国からの旅行客を受け入れる店は、支払い手段の案内を見直す価値がある。Mastercard対応の端末があれば、スマホ財布からの支払いも通る可能性が高い。非接触決済の端末を入れ、WeChat PayなどのQR表示も並べておけば、取りこぼしは減る。飲食店ではテーブルオーダー決済が客の期待になりつつあり、注文と支払いを一体にできるかが回転率に響く。まず、売上の上位を占める客層がどの決済手段を使うかを調べ、対応表を作るところから始めたい。
金融・決済事業者が学べる、提携と自前の使い分け
決済や金融に関わる企業にとっては、提携の組み立て方が参考になる。中国は現地のQR、その他は国際ブランドという使い分けは、全部を自前で作らない現実的な策である。銀行とメーカーが組めば、口座、端末、本人確認を分担できる。自社だけで広げるより早く、費用も抑えられる。ただし、客からの問い合わせ窓口を誰が持つのかは、事前に決めておく必要がある。不正利用や返金の対応が曖昧だと、信用を一度に失う。
出張の多い会社が試せる経費精算の効率化
出張が多い会社は、経費精算の面で試す余地がある。社員が現地通貨を立て替える手間が減れば、精算の作業も軽くなる。ただし、利用明細の形式、領収書の扱い、為替レートの記録方法が社内規程に合うかは確認が要る。まず小さな部署で一カ月試し、手数料と精算にかかる時間を比べる。数字で差が出たら広げる、という順序が安全である。